ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

昔散々行き来した薄暗い廊下には、相変わらず段ボールや脚立、椅子なんかが無秩序に積みあがってる。
あの頃から一度も動かしてないんじゃないかってくらい、変ってない。
懐かしいな……

田所さんが押さえてくれたこのスタジオは、フェミール池袋、という。

第1から第4まで、さまざまな撮影に対応したスタジオが用意されていて、使いやすさは満点、業界関係者からの評価も高いところなんだけど……
ある理由から、私は4年以上もここを使うのを避けていた。

「ほう……」
第3スタジオに入るなり、大河原さんの口から声が漏れた。

真っ白に塗られた床と壁、天井の黒い鉄骨とのコントラスト、設置された照明装置の数々にびっくりしたんだろう。
あのオンボロの外観からは想像もつかないものね。

このスタジオには、さらにピカピカに磨き抜かれた最新のシステムキッチンまで併設されていて、料理撮影によく使われている。

中を見渡すと……すでにスタッフは到着して、準備を始めてるみたい。

田所さんと話している小柄な女性は、フードコーディネーターの南波(なんば)さんだ。野菜を切っているのは……見覚えないから、アシスタントさんかな。

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

声をかけると、田所さんがこちらに気づき、南波さんと一緒に頭を下げた。
お辞儀を返してから……私の視線は、部屋の隅で膝をつき黒いバックから黙々と機材を取り出している一人の男性へ向かった。

肩まである黒髪を、無造作に後ろでまとめたその人が、振り返る。
ミニタリー柄のシャツに、ライダーズジャケットってスタイルは、彼のワイルドな魅力によく似合っていた。

私を認めると、無表情に見えた奥二重の双眸が、ふわりと緩む。

「飛鳥」

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