ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

もう二度と口もききたくないと思ったこともあったのに。
こうやって友達の一人として、笑っていられる。

そんな風に雅樹とのことを過去にできたのは、やっぱりライアンのおかげだと思う。
やっぱり彼は、私にとって特別で……
私は彼のことが好きで……


別れる? 
そんなの、絶対無理。

言おう。
ライアンに、話そう。

張さんが訪ねてきたこと。
ライアンの過去を聞いたこと、お義父さんが置かれた立場のこと。

彼を苦しめてしまうかもしれない。
でも、私も一緒に苦しむから。
一緒に悩むから……だから。

タクシーから転がり落ちるように降りて。
玄関に入った途端――……抱きしめられた。


――心配、した。連絡ないから……事故かと。

お帰りなさいも、遅かったねもなく。
いきなり力いっぱい、胸の中に閉じ込められて。

愛しさで、息ができなくなりそうだった。

それまで一緒にいた人の声も仕草も、何も思い出せない。

気持ちのすべてが、ライアンに向かっていた。
私はこの人に惹かれていて、もう離れられないんだと、心の底から実感した。

なのに。

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