ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

会社に到着し、いくつかのメールを処理し、確認の電話をかけ、見積書を作成し……。
無心で仕事をこなすうち、なんとか少しずつ立ち直り始めた。

今日は残業しないように帰って、ライアンに謝ろう。
今日こそ、ちゃんと彼と話をしよう。

次のアポイント先、サンビバレッジとの約束時間を確認して、
持っていく資料を最終確認。

そろそろ出ようかなと腕時計に目をやった――瞬間。


「うぎゃあっ」


蛙踏みつぶしました、みたいな声が後ろであがって、何事かと振り向いた。
涙目になりながら、お尻をさすっているのはラムちゃんだ。

「またやっちゃいました……ひひ……」

いい加減学習しろ、と向かいの席からボソッと聞こえる坂田慎太郎(さかたしんたろう)の声は無視しよう。

今朝からずっと彼女、同じことを繰り返してるから、坂田が呆れるのも最もだけど……原因を知っているだけに、私としては知らんぷりもできない。

「病院に行った方がよくない? もしかしたら、骨にヒビとか入ってるかも」

昨日スタジオの前で転んだ時、お尻を打ったらしくて。
かなりひどい青アザになっちゃったみたいなのだ。

でもそれを忘れて、勢いよく椅子に座っちゃうから……みんなが振り返るような声で叫ぶことになる。

「いえいえ、そんな大げさなものじゃ……あーもう、ほんっと腹立つ。あの男、今度会ったらただじゃおかないんだからっ!」

あの男?

同じ疑問を持ったらしい坂田が、「あの男って?」と顔を上げた。

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