ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
――婚約を、破棄したいの。
あぁあれは、夢じゃない。
夢じゃなかったんだ。
広がる痛みに、内臓を食いつくされてしまったみたいに。
呆然とベッドに座り込む僕の脳内で、昨夜の出来事がリプレイされていく……
――……僕もジョークは好きだけどね。そういう笑えないブラックな奴は、得意じゃな――
――冗談じゃない。本気。
こんな状況なのに。
チロリと唇を湿らせる飛鳥の舌がひどく煽情的に見えて、ドキリとした。
――……なら、なおさら笑えないね。
白くなるほどこぶしを握り締めて、荒れ狂う感情を抑える。
さもなければ、何をしでかすか自信がなかった。
――何があった? 僕の何が気に入らない?
――好きな人がいるの。だから、あなたとは結婚できない。
目の前が、さっとカーテンを引いたように暗転する。
好きな人? 飛鳥が、別の誰かを……僕以外の、男?
脳裏に浮かんだのは、彼女の笑顔を独占していたあのカメラマンだった。
――僕がそれを、承知すると思ってる?
――思ってる。だってあなたは……優しいから。私の幸せを、望んでくれるでしょ?
一気に血の気が引いた。