ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

ちょっと待ってくれ。
あのカメラマンの方が、君を幸せにできるっていうのか?
僕は? 僕とのことは……

――君は今、自分がどれだけ残酷なことを言ってるか、わかってる?

うまく呼吸ができない。
ひどく空気が薄い気がして、酸素を求めて喘ぐと。
喉の奥から不格好な音が漏れた。

――ごめんなさい、ほんとに……ごめんなさい……

――謝ってほしいわけじゃないっ!


もがくように、足掻くように、彼女の両腕を強くつかんだ。
覗き込んでも、逸らされた視線は決して、僕を捕らえない。
ごめんなさいと繰り返す彼女に、何かを言いたいのに、言葉にならなかった。


――矢倉と、やり直すってこと?

掠れた声で聞くと、かすかに彼女が頷いた。

――私たち、一度別れたんだけど……今回の仕事で再会して……やっぱり忘れられないって気持ちが大きくて。そしたら彼も、同じ気持ちだって言ってくれて。


言葉の意味を、理解するにつれ。
黒々としたものに、胸の内が侵されていく。

嫌だ。
嫌だ。
彼女は、僕のものだ……

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