ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

何かを言いたそうに佇む新条に構わず、自分に積もった雪を払いながら歩き出した。
申し訳ないけど、今は誰とも話したい気分じゃない。

あの荷造りは、出張のため。
なんて……虫のいいことを考えるつもりはない。
帰ってきたら、そのまま矢倉のところへ行くつもりなんだろう。

このままじゃ、ろくに話す機会もないまま、彼女を失ってしまうかもしれない。

一体どうすればいいんだ?

疑問は頭の中を堂々巡りするばかりで、答えに全く、たどり着かない。

つかんでもつかんでも。
指の隙間から、大事なものがボロボロとこぼれていくような気がする。

そんな焦燥感に滑稽なほど動揺しながら、惰性的に足を進めた。

夜の新宿。
こんな時に限って、目につくのは恋人たちばかりだ。


一本の傘の下、肩を寄せ合いながら――相合傘、って言うんだっけ――笑いながら僕を追い越していく。

その2人が、飛鳥と矢倉に見えてしまい……こぶしを乱暴にポケットへ突っ込んだ。

<ねえお兄さん、一人? 遊びに行かない? 奢るからさ>

どこの国だろう。
何度か見知らぬ外国人に声をかけられたけど、ひたすら相手にせずに。
足が疲れるまで歩き続けた。

――彼と一緒にいると、安心できるの。
――じゃあ僕は? 僕と一緒にいると、どうなの?
――……ライアン、と一緒にいると……

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