ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

まさか自分が、こんなにも誰か一人に溺れるほど夢中になってしまうなんて。
考えたこともなかった。

失いたくないんだ……君を。
どうか、もう手遅れだなんて言わないでくれ。

瞼を閉じて、祈るように仰いだ空。
ポツポツと頬へ触れる白いものを、そのまま受け止めていると。

唐突に、それが途絶えた。

目を開けると……傘を差し出されていることに気づく。

立っていたのは、スポーツで鍛えたに違いない分厚い体躯の男――飛鳥の上司、新条和馬(しんじょうかずま)だった。


「もしかして、真杉を待ってるのか?」

「……はい」

気づけば、コートの上には雪がうっすらと積もってる。
相当長い間、立っていたらしい。

「今日は、会社には来てない」

「……えっ?」

驚いて、その顔を見直すと。
「聞いてないのか」と、太い眉が不審そうに寄った。

「昨日から四国へ出張なんだ。明日の夜まで、帰ってこない」

出張……帰ってこない?

は、……と、全身から力が抜けた。
何を、やってるんだ僕は。

「喧嘩でもしたのか?」
「えぇ、まぁ……そんなとこです」

なんとか軽い口調を装って、「教えていただいて助かりました」と頭を下げた。

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