ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「さぁあっ! 早く入って入って!」
ナディアに腕を引っ張られながらフローリングの廊下を進むと、前方からガーリックの香ばしい匂いが漂ってきた。
「ただいまぁ!」
導かれるままドアの向こうを覗き込むと、そこは料理教室でも開けそうなゆったりしたオープンキッチン、そしてモノトーンで統一された、シックなリビングダイニングへと続いていた。
一人の男が、リズミカルにふるっていたフライパンから顔を上げる。
「いらっしゃ……なるほど、派手にやったな」と、端正な顔がくしゃりと綻んだ。
「お久しぶりです」
苦笑しつつ頬のガーゼに手をやり、頭を下げる。
そしてさっと、ラガーマンのように張り出した骨格のその男へと目を走らせた。
ラフな黒のスウェットに、モスグリーンのエプロン。
かなりくだけたスタイルなのに、モデルのように見栄えして見えるのは、素材がいいせいか。
「ねえねえダーリン、今夜のメニューはなぁに?」
ナディアが、がばぁっと勢いよくその背中に抱き着き、男の身体がぐらついた。
「こら、火を使ってる時はやめろと言ってるだろう。危ないから」
「えーいいじゃなーい、照れなくてもー」
「バカ、そういうことじゃない!」
邪険に押しのける仕草にも、なんとなく惚れた弱みってやつが透けて見えて微笑ましい。
この男が、ナディアの最愛の恋人。
そして飛鳥の上司、新条和馬だ。