ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

気分は悶々と晴れないままだったけど、
いつまでもぼんやりしてるわけにもいかない。
今日だって、山盛りの業務が私を待っているわけで……

セミナーの件は、後で部長にもう一度確認するとして。
とりあえず席に戻ろうと決めた私は、身をかがめるようにして観葉植物の間からフロアの様子を確認した。

向こう側に広がるオフィスからは、いつも通りのざわめきが聞こえてくる。
うん、大丈夫そうだ。

ライアンはまだ、部長と打ち合わせなのかな。
よしっ、この間にとっとと外出してしまおう。

上体を勢いよく起こし、足を踏み出した。

それが、まずかった。


――グラッ


突然視界が、揺れて傾く。

まずいっ! 
そう思うのに、身体に全然、力が入らない。


足元の床が固体から液体に換わったみたいな、奇妙な感覚。


目の前に床が――……倒れるっ!!

衝撃を覚悟して、ギュッと瞼を閉じた――けど。



ガシッ……


痛みも何も、訪れなかった。
代わりに私を包み込んだのは、逞しい腕と懐かしい香り。

「飛鳥っ、大丈夫?」

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