ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

小さく笑い出した彼へと、目を戻した。

「安心して。今日は何もしないから」

きょ、今日、は??

「調子の悪い飛鳥を襲っても、楽しくないからね。こういう時は、ありがとうって一言くれたら、それで十分」

思いのほか冷静な口ぶりに、ホッとする。
「あり、がとう……」

「それでいい。男なんてさ、好きなコの笑顔一つ、お礼一つでなんでも頑張っちゃう単純な生き物だからね」

す、好きなコ……って、私、のこと?

頬を火照らせながら彼の言葉を反芻し――唐突に。んん? と首をひねった。ある事実に気づいたから。

「じゃあ、この前のキスも、必要なかったってことじゃない?」

私がありがとうって言えばすむ話だったんじゃ……


今度はライアンの視線がギクリと揺れ、後ろめたそうに離れていく。
「あ~……あははは、そこは気づいちゃいけないとこだよね」

「何が『気づいちゃいけないとこ』よっ!」

あんなに悩んだのにっ。
悶々としたのにっ。

勢いのまま繰り出した私のパンチ――けどそれは、易々と彼の手に捕まった。

「もうっほんと、信じら……んな、い……」


冗談めかした言葉は、みるみるデクレッシェンド。
その瞳がもう、笑っていなかったから。

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