ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
どれくらい時間が経っただろう。
その手は、もうとっくに冷えピタっていうより湯たんぽに戻っていたけれど。
彼はなかなか、手を離そうとしなかった。
「もう大丈夫だから、気にしないで帰って? 時間とらせちゃってごめんなさい」
これ以上触れ合うのはよくないと、
その手をつかんで引きはがすなり、人工的な光が視界にあふれた。
眩しさに瞬きを繰り返していると。
「君を一人置いて、帰れるわけがないだろう?」
心配そうな声がする。
「ほんとに平気。少しここで休んでいくし」
「へぇ……そんなに怖い? 僕と2人きりになるのが」
焦点が合い出した視界をそろりと動かせば、ニヤリと思わせぶりな笑みを滲ませる翡翠の双眸にぶつかり。
ムッとして「違うわよっ」とかみついた。
「ただ……あなたに借りを作りたくないだけ」
「ふぅん、特別料金とられちゃいけないもんね?」
特別料金……
――使用料をお金で払うか、それ以外のもので支払うか、っていう違いだけだよ。そして僕は、それ以外の物を望む。
急に、先週のやり取り、そしてそれに続いた熱いキスを思い出して、彼の唇に目が吸い寄せられてしまう。
う……情けない。
なんとか視線を剥がして、壁から天井へと彷徨わせる。
こういう時、もっとさらっと、スマートに返せたらいいのに。
こんな風にドギマギするばかりなんて――
「ぷっ」