ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「い、いいの? ……なんか、話、盛り上がってたみたいだけど……」
私の視線を追ったライアンは、「あぁ大丈夫」と構わず歩き出した。
「スペインから観光に来たんだって。原宿に行くにはどうしたらいいかって聞かれただけだよ」
絶対、それってただの口実だと思うけど。
蘇ってしまったモヤモヤした気持ちを耐えるように、唇を引き結んだら……
「それに、堂々と君に触れられるチャンス、僕が逃すと思うかい?」
フェロモン駄々洩れてますが、っていう微笑を向けられて、きゅんと心臓が音を立てた。
恋人から婚約者になっても、ライアンは変わらない。
変わらず私を、お姫様みたいに甘やかして愛してくれる。
優しくてカッコよくて。
パーフェクトな、私のフィアンセ。
なんて幸せなんだろうって思う。
なのに時々。
インクが水面に落ちたみたいな、ぼんやりとした不安に襲われる。
それはすぐに幸福という水に溶けて、見えなくなってしまうんだけど……
――もう、終わり?
記憶の奥から聞こえてきた冷たい声から意識を逸らすように、彼の胸に頬を寄せた。