甘い罠に囚われて
一瞬の沈黙の後、

「悪かった……」

そう言うと漸くKAKERUは腕を離した。

「じゃあ、これで失礼します。」

一秒でも早くこの場から立ち去ろうとしたら

「待ってよ。」

と、呼び止められた。

「あの、本当にお金も結構ですし、この事をSNSで拡散とかないですから。もういいですか?」

今度こそ立ち去ろうとしたのに、

「悪かった。この通り。」

と、深々と目の前で頭を下げるKAKERU。

「わかりましたから、頭を上げてください。じゃあ、本当にこれでーーー」

「ーーー逃げて…きたんだ。」

「えっ?逃げて?」

バツの悪そうな顔してKAKERUが言う。

「うん、逃げてきた、稽古場から。で、喉が乾いてお茶飲みたくて買おうとしたは良いけど財布も何も持たずに出てきてしまって…だから……マジで助かった。」

さっきまでの強気な態度とは違ってボソボソ話す姿はテレビで見るKAKERUとは別人だ。

「大変…なんですね。」

ごく普通のOLである私はなんて言えば良いのか分からない。無難な言葉を掛けるとーーー

「こんな形だけどこれもなにかの縁、話、聞いて貰える?お姉さん俺より年上っぽいし。」

「いや、縁とか…」

て言うか確かに年上だけど。

KAKERUは10代の頃からファッション誌などでモデルとして 活躍しその後、俳優業も。

とは言え確かまだ20代前半?

今年28になるアラサーの私は確かに年上だけど目の前の有名人にお姉さん呼ばわりされる筋合いはない。

返事に困っていると再び…

「頼む。」

あまりにも真面目な顔して言うから断りきれずつい言ってしまった。

「聞くだけなら……」

この先、苦しいばかりの恋をするなんて分かっていれば言わなかったのに。

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