甘い罠に囚われて
聞き役に徹したのがよかったのか、特にアドバイスをした訳でもないのにKAKERUはとてもスッキリした顔で

「聞いて貰えて良かった。稽古場に戻って頭下げてくるよ。」

そう言った。

とても清々しく凛々しい顔に今更だけど心が踊った。

やっぱり、格好いい……

だけどこうして会うなんてこと二度とないだろう。

テレビで見るくらいはするだろうけど。

そう思いながらその場で別れたのに数日後、また再会するとは……。

「よっ。お姉さん、この前はどーも。」

例のコンビニで買い物をしているといきなり声を掛けられた。

やはりニット帽にマスクだけど今回は分かる。

あのKAKERUだってこと。

「えっ…また、逃げて……」

「違うよ。今日は逃げてない。」

そう聞いてとりあえずホッとする。

偶然会っただけか。だったらこんな一般人の代表みたいな私がいつまでも側にいたのではどこで誰が気付くかもわからないし早く立ち去ろう。

「逃げてないなら良かったです。頑張ってください。それじゃーー」

レジに行こうとするのにまた腕を掴まれた。今回はこの前と違ってとても優しく。

「他に何か買う?」

そう言いながら私が持っていた買い物かごを取り上げる。

「いえ、もう無いですけど、ちょ、それ、」

あっという間に会計を済ませるとそのまま表に出た。

 

私の腕を掴んだまま。

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