行き着く先は・・・甘い貴方の檻の中?
「今日は和食の気分だったから、簡単なものにしたよ。口に合うといいけど」

テーブルの上には、アジの開き、茄子の田楽、白和え、ご汁にきんぴらごぼうが並べられていた。

「短時間でよくこれだけ作れたな」

「こんなの煮て焼くだけだし、そんなに時間かからないよ」

゛いただきます゛

ときちんと手を合わせて食べ始めるさくら。

波留斗も同じように合掌して、食事に手をつけた。

「うまい」

「でしょ?」

フフン、とさくらが鼻をならす。

「料理は楽しいけど、やっぱり誰か食べさせる相手がいる方が数倍楽しい」

独り言のようにさくらが呟く。

「食べさせる奴ぐらいいただろう」

「いや、食べさせたいと思う人もいなかったし、どうでもいい相手にかける時間は無駄だから、敢えては探さなかった。西園寺に居るときはお手伝いもいたから料理することもなかったけど」

波留斗は、自分がさくらの゛食べさせたい相手゛に選ばれたのでは、と内心喜んだが、社交辞令の可能性もあると、口を挟むのを止めた。

「この4年は独り暮らしをして自炊してたんだけど、料理が楽しかったのは最初のうちだけだったな」

゛何かがやりたい゛
゛何かを知りたい゛

という好奇心はほぼ叶ってきた。

恵まれた才能、恵まれた環境。

しかし、一方で西園寺家の跡取りという枠に勝手に縛られていた自分もいた、とさくらは語った。

「板前レベルの料理だって作れる。楽器も弾ける。スポーツだって何だって一通りはこなせる。だけど、本当にやりたいことが見つからなかったし、どこかで家族に遠慮してた。TBUを立ち上げて自由をもらった4年間でさえ・・・」

食事の合間に、言葉を重ねるさくら。

波留斗は

゛ああ゛
゛そうか゛

と、短い相槌をするだけで、ほぼさくらの話の聞き役に徹した。
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