行き着く先は・・・甘い貴方の檻の中?
「やるじゃないか。波留斗」

南條ビバレッジ、商品開発部横の会議室。

Denizを開発した坂井大和と倉永菜摘美、波留斗、千歳、さくらが、自社のホームページを見ながら、Denizで祝杯を上げているところに現れたのは、

南條ビバレッジの副社長・南條悠紀斗だった。

「副社長、お疲れ様です」

坂井と倉永は姿勢を正してお辞儀をした。

そんな二人に、悠紀斗は微笑んで労いの言葉をかける。

「ああ、君達がDenizの開発者だね。ご苦労様。初日の今日だけでも追加注文が殺到している。それもこれも君達が日々努力を重ねてくれたお陰だ。礼を言うよ」

整った顔、知的な瞳から繰り出される微笑みに、倉永は頬を染めている。

千歳も坂井も嬉しそうにしているが、波留斗は違った。

「副社長が何か御用ですか?」

「わが社の売り上げに貢献してくれた人物に挨拶しに来たんだ。邪魔者扱いは心外だな」

悠紀斗は、警戒する波留斗には目もくれず、波留斗の後ろに控えていたさくらに近づいていった。

「mirayさん、ご無沙汰しております。あなたが今回のCMに出演してくださったお陰で、当社の商品の売り上げが倍増した。感謝しています」

悠紀斗は、さくらの目をじっと見つめながら、さくらの右手を取り、掌にキスをした。

「兄さん・・・!」

「いえ、mirayは只の広告塔に過ぎません。Denizを開発した坂井さん、倉永さんの努力はもちろん、CMを作成した晶さんや、私を見い出してくれた波留斗や千歳さんのお陰ですから」

さくらは、さりげなく右手を悠紀斗から遠ざけると、物憂げに微笑んだ。

それは、愛想笑いとも違う、同類を見るような、観察者の目だった。

「君は、実に興味深いね。立っているだけで、引き込まれそうになってしまう」

「物珍しいだけでしょう。後、3シリーズ、飽きさせないように頑張りますよ」

「面白い。僕は、関心を持ったものは必ず手中におさめると決めているんだ」

「兄さん。いい加減にしてくれないか」

波留斗が、二人の間に割り込んで、悠紀斗を睨んだ。

「ああ、波留斗。お前のものだって言いたいんだな。だが、覚えておけ。これまでだって、最終的にお前のものになったものは何一つないだろう?」

波留斗の耳元で、波留斗にだけ聞こえるように、悠紀斗が囁いて笑った。

悠紀斗は、勝ち誇ったような顔で、皆に向き合うと

「今日はお祝いとお礼を言いに来ただけだ。これからも忙しくなると思うが、宜しく頼む」

そう、手を上げて言い残し部屋を出ていった。
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