行き着く先は・・・甘い貴方の檻の中?
「ん・・・」

「起きたか?」

高い天井に、オフホワイトの内装。

ようやく自分の部屋として認識するようになった仮住まい。

間違いなくさくらの部屋なのに、隣には慣れない人肌を感じる。

「あー、波留斗・・・?・・・そっか、あのまま寝ちゃったんだ」

さくらはムックリと起き上がる。

自分が何も着ていないことに気づいたが、特に気にした様子もなくそのままベッドを降り、ドアに向かって歩き出した。

「波留斗、シャワー浴びてくる」

「一緒に入るか?」

「いや、やめとく。波留斗は仕事でしょ?着替えもないし自分ちで入りなよ」

昨日、全部見たが、やはり、さくらは細身なのに恐ろしくメリハリのあるボディをしている。

何も纏わず、堂々と歩く姿はビーナスの様だ。

「少しは恥ずかしがれよ」

そう言いつつも、波留斗はさくらから目を離さない。

「普段から裸族なんだ」

振り返ったさくらは不敵に微笑んだ。

「マジ?」

「どうだろ?」

パタンとドアが閉まる音がして、波留斗は、またもさくらが自分の手の中から滑り出ていくような気がした。

さっきまで腕の中に感じていた温もりが急になくなり寂しさを感じる。

「まあ、逃がさないけどな」

波留斗は、昨夜脱ぎ散らかした自分の服を集めて身に付けると、さくらの部屋を後にした。

実は、さくらと波留斗の部屋には、秘密の連絡通路・・・(いや、ただ部屋が扉一枚で繋がっているだけだが)がある。

ここに越してきた時、さくらに

「これは何の扉?」

と聞かれたことがあったが

「ボイラーだから普段は開けないし、いざというときのために鍵はコンシェルジュが管理している」

と答えた。

もちろん、鍵は波留斗が管理している。

波留斗は、さくらがシャワーを浴びている間に、そのドアを使って、自室に戻った。

有名になったmirayの家に波留斗が出入りするところを、自社の社員とはいえ知られるのは不味い。

夕べこの部屋に入る時には、誰も近くにいないことを瞬時に確認したから大丈夫なはずだ。

このフロアに設置してある監視カメラは、波留斗しか見れない仕組みにしてあるから、警備員室のモニターにはダミーの映像しか映っていないはずだ。

しかし、部屋を出るときはそう簡単にはいかない。

このフロアには、さくらと波留斗の部屋しか存在しないとはいえ、ドアスコープや玄関のモニターから、物陰に隠れている人を確認できる範囲は限られている。

波留斗は、このマンションにさくらを匿うと決めたときから準備を進めていた。

内壁を壊しドアを設置し、通路の監視カメラを設置し直す。

全ては、高校・大学時代からの友人である某大手建設会社兼セキュリティシステム会社を運営する友人に頼み込んで極秘に工事を進めてきた。

もちろん、全ては同じマンションに住む悠紀斗対策といっても過言ではない。

悠紀斗には、mirayをここに住ませていることは伝えていない。

普段から悠紀斗は出張で自宅を留守にすることが多く、それ以外でも女の家やホテル、実家を梯子しており、このマンションには帰ることはほぼない。

mirayをここに匿っているのを知っているのは父とコンシェルジュ、警備員、そして運転手の斉木だけ。

必要な根回しは着々と進んでいる・・・。

嫉妬を拗らせた王子様系キャラ?

・・・とんでもない。

今まで波留斗は何にも、何事にも執着していなかっただけで、人一倍所有欲は強いのだ。

譲れないものに対する執着・・・それが、新たな波留斗の人格を開拓していく過程に必要な感情だったのだと周囲は思い知ることになる。
< 57 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop