行き着く先は・・・甘い貴方の檻の中?

天然お嬢様

「これは、いったいどういうことですか?」

一見さんお断りの高級料亭の一室。

『お得意様の接待があるから』

と、南條ビバレッジの社長であり、波留斗の父親でもある南條豊から、19時にと時間を指定されて向かった料亭には、豊と悠紀斗、向かいの座席に北王路銀行の頭取である北王路大輔とその娘、北王路望美が波留斗を待っていた。

「お久しぶりです。波留斗さん」

望美は美しい藍色の振り袖に身を包み、恥ずかしそうに頬を染めて挨拶をした。

「兄さんの婚約者である望美さんと兄さんの顔合わせに、何故私が呼ばれるのでしょうか?」

「まあ、座りなさい。波留斗には吉報だから安心していいぞ」

微笑みを称えた父、豊は嬉しそうに微笑んでいる。

「仕事を放って来ています。北王路様には失礼ですが、ご婚約のお話なら私抜きでも差し支えないかと思いますので、離席させて頂きたい・・・」

「何を言うんだ。お前のことだぞ。波留斗」

呼び止める豊は笑みを隠さない。

波留斗には嫌な予感しかしなかった。

「以前から、望美さんは悠紀斗よりも波留斗のことが好きだったそうなんだよ。悠紀斗もそれを知っていて、双方で話し合った結果、縁談は一旦白紙に戻して、改めて波留斗とのお見合いを企画したと言うわけだ」

寝耳に水である。

今でこそ、波留斗はDenizが大当たりして、話題の人になっているが、それまでの望美は、波留斗に対して蔑むような視線を向け、鼻にもかけていなかったはずだ。

それに、悠紀斗がダメなら波留斗、という態度が通用するとでも思っているのだろうか?

「へえ、ちなみに望美さんはいつから私のことを?どんなところをお気に召したのでしょうか?」

「はじめから、波留斗さんのことを気に入っておりました。お仕事ができるところも全てです」

チラチラと望美が悠紀斗に視線をやりながら言葉を繋いでいる様子が見てとれた。

悠紀斗と何か交渉したに違いない。

「この縁談には、北王路銀行との今後の繋がりを強める意味も含まれている。波留斗もこんな美しい方と結婚できるのなら本望だろう」

「お断りします」

シーンと、場が凍りつく。

豊も北王路親子もポカンと口を開けている。

悠紀斗だけが、何故か黒い微笑みを浮かべているが想定内だ。

「私にはすでに心に決めた人がいますから」

両親にも、悠紀斗にも、会社の役員にも逆らったことのない、波留斗の初めての拒否だった。

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