行き着く先は・・・甘い貴方の檻の中?
「縁談・・・?悠紀斗さんの許嫁と?」

南條ビバレッジの広報部に戻った波留斗は、沸き上がる怒りを鎮めながら、ドカッとデスクチェアに腰かけた。

もう時刻は21時。

オフィスには波留斗と千歳の姿しかない。

波留斗から話を聞いた千歳は、呆れてものが言えないといった表情で目を見開いている。

「兄が何かを仕掛けてくるとは思っていたが、まさか自分の婚約者を押し付けてくるとは思わなかった」

波留斗がため息をつくと

「北王路望美がお前のことを好きだった・・・?よく言うよ。あんなに悠紀斗さんに付きまとってたくせに」

そう、望美がイケメン御曹司にこだわっていることは、大手企業の御曹司たちの間では有名な話だった。

だから、悠紀斗との縁談に悠紀斗が異議を申し立てなかったことを、波留斗は意外だと感じていたのだが、断るタイミングを見計らっていただけのようだ。

きっと、自分が縁談を断る代わりに、自分達の命令には逆らえないであろう波留斗と結婚確約する、とかなんとか言って望美を説得したに違いない。

波留斗がDenizで成功した機会を見計らって・・・。

「はっきり断った。俺にはもう大切にしたい存在がいるから」

「お前からそんな言葉を聞ける日が来るなんてな。やっぱあの娘はすげえよ。・・・ああ、でもなあ、美憂は可愛そうだなー。わかってたとはいえ失恋だもんなー。それに、北王路望美がただで諦めるとは思えない。問題は山積みだな・・・」

「負けねえよ」

波留斗は誰が来ようともう、逃げないと誓っていた。

責任をとって会社を辞めろというなら辞めてもいいとまで思っていた。

会社を辞めた波留斗をさくらが受け入れてくれるかは保証がない。

しかし、立ち向かわずに受け入れる波留斗を、さくらが認めるはずはないのだ。

不思議と波留斗は、さくらが無条件に笑って受け止めてくれると信じることができた。

『頑張ったね』

そう言って微笑んで、アンニュイに前髪を上げる姿がハッキリと浮かんでいた。



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