行き着く先は・・・甘い貴方の檻の中?

たった一人の貴方

「おかえり。波留斗」

マンションのさくらの部屋。

さくらは新しくオンエアされるfinding southwest fantasiaのアニメの台本を見ていた。

「声優業はどうだ?」

「ああ、思ったよりも楽しいよ。本物の声優さん達の気迫がすごい。彼らは絵に命を吹き込んでるんだ」

台本に赤ペンを引いて、キラキラと今日の出来事を話すさくら。

TBUの専務の仕事とは比較にならないほど華やかな世界。

今や男性声優は、アイドルと同じくらい人気があり、需要もある。

そんなイケメンでイケボな声優に、さくらが心を奪われてしまうのではないかと気が気ではない。

人に思いを伝えることの苦手な波留斗の心を知ってもらうには、自分の秘密を理解してもらうしかない。

この日の波留斗は、そんな思いが限界に達していた。

「余り・・・遠くに行かないで欲しい」

波留斗はソファに座るさくらを後ろから抱き締めて呟くように言った。

新しい世界の扉を開いて、自分の意思で進んでいくさくらを応援したい気持ちと、誰にも見せずに閉じ込めておきたい気持ちがひしめき合う。

「波留斗・・?」

波留斗の心の奥底に眠る不安やコンプレックスの種。

それは、物心ついた幼少期に遡る・・・。
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