行き着く先は・・・甘い貴方の檻の中?
けたたましい救急車のサイレンが鳴り響く中、波留斗の母親である優美子は病院に運ばれていった。

母親に抱き止められたとはいえ、波留斗もかなりの衝撃を受けたため母とは別の部屋だが、病院に一泊入院をした。

波留斗が翌日退院しても、優美子は1ヶ月自宅に戻らなかった。

そして、産まれて来ると聞かされていた赤ん坊もいつまで経っても南條家に現れることはなかった。

「3歳だった俺には、その当時の記憶はほぼなかった。でも、小学生の頃に、親戚の叔母さん達が話しているのを立ち聞きしてしまったんだ・・・」

それは、波留斗の母方の祖母が亡くなった日の通夜での出来事だった。

゛そういえば、優美子ちゃんには波留斗くんの下に女の子がいたんじゃない?゛

トイレに行こうとしていた波留斗は、その内容に驚いて、思わず廊下の端に身を隠した。

゛あら、あの子は生まれる前にダメになったって言ってたじゃない。例の波留斗くんの事件の時に゛

゛そうだったかしら?私は聞いてないから、てっきり普通に生まれて大きくなってるもんだと思っていたわ゛

叔母さん達の話は、波留斗の心に大きな衝撃を残した。

自分のせいで母親が怪我をし、妹の命まで奪っていた。

呆然と立ち尽くしていると、背後に人影を感じた。

兄の悠紀斗だった。

「兄さん、あの話は本当なの?」

震える声で聞いた波留斗に、心底軽蔑したような顔で悠紀斗が呟いた。

「覚えていないのか?幸せなやつ」

日頃から波留斗に冷たい態度をとる兄のことを苦手だと思っていたが、兄には波留斗を嫌う理由があったらしい。

「俺さあ、あの時、妹ができるのを楽しみにしてたんだよね。・・・どんくさいお前のせいで母さんは泣くし、父さんも元気がなくて散々だったよ」

その言葉は、当時の悠紀斗の本音だったに違いない。

しかし、幼い波留斗の心を破壊するのには十分な出来事だった。

「とにかく、お前はどんくさいんだからくれぐれも俺の邪魔はするな。父さん、母さんにも迷惑かけるなよ」

こうして、波留斗は常に両親と兄、そして周囲の人々に対して大きな壁を作るようになっていった。

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