行き着く先は・・・甘い貴方の檻の中?
その日は、波留斗の父と兄は商談のために香港におり不在だった。

始終ニコニコと話す優美子は、さくらにはとても波留斗を憎んだり、恨んでいるようには見えない。

一通り食事が済んで、ケーキと紅茶が運ばれてきたタイミングを見計らって、さくらは優美子にあることを尋ねた。

「素敵な家族写真ですね。・・・あの超音波エコーの写真は波留斗さんか悠紀斗さんのものですか?」

さくらの目についたのは、ティーカップなどがおさめられているリビング用の食器棚。

その上に家族四人の集合写真と、胎児と思われる赤ちゃんの超音波腹部エコー写真が飾られていた。

突然のさくらの質問に、波留斗は驚いてさくらを見つめた。

当然、答えを知っている波留斗だが、それを自ら答えることができない十分な理由がある。

大腿の上で、ぎゅっと拳を握りしめて体を固くする波留斗の左手の上に、さくらが自分の右手をのせる。

さくらの方に顔を向けた波留斗に、さくらは見つめ返すだけで何も言わない。

「ああ、あのエコー写真は波留斗の妹のものよ。生まれては来なかったけど、大事な私の娘」

わずかに震える波留斗の体に気付きながらも、さくらは言葉を止めようとはしなかった。

「あの大きさだと、4ヶ月位ですか?」

さくらは、仲の良い従姉妹から『受精から出産まで』を解説した出産・育児雑誌を見せられたことがあるのだが、何事も勉強熱心なさくらは、そこに書かれていた内容を将来必要な知識として全て吸収していた。

「ええ、よくわかるわね。そのとおりよ。可愛いでしょう?」

ニコニコと笑う優美子は、テーブルの上に置いてあったクッキーの包みを二つ手に取ると、愛しそうに棚の上の超音波写真の前に供えた。

「このエコー写真をもらった翌日に出血して、病院に行ったら心音が聞こえなくなっていたの。・・・その後は死産になったわ」

驚いて顔をあげた波留斗の肩をさくらがゆっくりと撫でて宥める。

「妹さんは、波留斗さんがベランダから転落した時にお亡くなりになったのでは・・・」

「何の話?そんなことはないわ。波留斗さんは3歳だったからうろ覚えだろうけど、ルーちゃん、ええと、この子の胎児名ね・・・。波留斗さんが転落した時よりも1ヶ月位前に、私が病院に入院してたこと覚えてないかしら?お父様と面会に来てくれて『ルーちゃんいなくなって悲しい』って泣いてくれたのよね」

そう言って悲しそうに微笑む優美子の言葉に嘘は見受けられなかった・・・。

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