もうひとりの極上御曹司
「いつも母が迷惑をかけて申し訳ない。仕事の邪魔になるだろうし、今後は出入り禁止にしてもらっても構わないと、青磁伯父さんに伝えてほしい」
「いえ、別に迷惑ではないですし……」
慌てて首を横に振る駿平の横で、緑は「ほら、兄さんは私に甘いし、迷惑じゃないもの。そうでしょ?」と胸を張る。
息子しか持たない緑は千春や亜沙美を実の娘のようにかわいがっている。
とくに小学生の頃から気にかけている千春への愛情はかなりのもので、成人式のときには長年付き合いのある呉服屋を通じて豪華な振袖を用意したほどだ。
一年をかけて仕立てられた振袖には鮮やかな桜の柄が浮かび、それに合わせて織られた帯もまた朱色が映える極上の品だった。
数百万はくだらないと簡単に想像できる着物を前に、千春と駿平は口をあんぐりと開け呆然とした。
受け取るわけにはいかないと二人そろって全力で遠慮したのだが、強引に試着させられれば千春に合わせて仕立てられただけあって彼女によく似合っていた。
単なる試着だというのに、何故かその場に呼ばれていた美容師たちによって髪を結い上げられメイクをきっちりと終えたときには。
その場にいた緑と成市だけでなく愼哉までもが千春の美しい姿に感嘆の声をあげていた。
もちろん駿平は嬉しさのあまり泣いていた。
自分で振袖を用意できなかった悔しさと、ようやく成人したのだという安堵感が混ざり合い、複雑な心境だったと、後日お酒に酔った流れで口にしていた。
そのときも、束の間しんみりした空気を変えたのはやはり緑だった。
『成人式当日はアマザンホテルでお祝いの席を設けるわね。愼哉に会場まで迎えに行かせるから楽しみにしていてちょうだい。それにしても千春ちゃんとても似合っているわ。名前にちなんで桜の柄にしたんだけど、本当に似合ってる。さあ、たくさん写真を撮りましょうね』
その一声とともに部屋に現れたカメラマンによって何種類ものポーズをとらされ、笑顔を求められた。