もうひとりの極上御曹司

広い木島邸本宅だけでなく離れにある茶室や日本庭園さながらの手入が行き届いた庭、蘭が育てられている温室に連れて行かれ、そこでも……。

傍らにはいつも笑顔の緑がいて、千春の晴れ姿を見守っていた。

ときには度を越してしまう緑だが、家族は兄ひとりの千春にとって彼女の存在は大きく、その愛情に甘えることも増えている。

今日のように突然事務所に現れて戸惑うことがあっても、緑の天真爛漫さは千春の憧れでもあるのだ。

「じゃあ、千春ちゃんはお留守番になっちゃうわね。やっぱり一緒に北海道に……いやだわ、愼哉。睨まないでちょうだい。愼哉と悠生はいつも私の楽しみを取り上げるから嫌いよ。……でもいいわ。成市さんにあなたたちを海外に出張に行かせるようにお願いするから、そのとき一緒にお食事しましょうね」
「あ……はい。でも」

自分の思いつきに満足げな緑に千春は答えにつまり、愼哉は呆れたように視線を天井に向けた。

そして、気を取り直したように千春に顔を向ける。

「千春はお留守番か。じゃあ、駿平先生とのハンバーグの代わりに、今日は俺が千春に夕食をごちそうする。バイトが終わる頃に迎えに来るから、待ってろ」
「え? ごちそうって言われても……お気遣いなく。お兄ちゃんとはまた今度行きますし、大丈夫です」

千春は慌てて首を横に振った。



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