現実主義の伯爵令嬢はお伽話のプリンセスと同じ轍は踏まない
だから急に名前を呼ばれて、直ぐに反応できなかった。

「グレース、聞いているのかい?」

「え、ええ、お父様」

と答えてみたは良いが、何を言われたのか全く分からない。困ってヴェネディクトを見上げると、うっとりするほど甘やかな笑みで返された。

「良かったね、グレース。僕もとても嬉しいよ。これで一緒にグランサム公爵邸にも行けるね」

「あ、ええ。ええ、そうね」

どうやら話は上手くいったみたいだ、とグレースも笑みで答えるとシーモア伯は寂しそうに大きく息を吐いた。

「私がこんな状態だし、お恥ずかしい話ほとんど縁談も来ていなかったからね。実はグレースはこのままずっと家にいてくれるのではないかと思ってしまっていたのだよ。それがこんな急に……いや、すまないね。良い話だというのに父親のエゴが出てしまった」
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