現実主義の伯爵令嬢はお伽話のプリンセスと同じ轍は踏まない
その時、執事がそっとヴェネディクトの傍らに立った。

「手紙?」

捧げもった銀のトレイには封筒に凝った模様が入った一通の手紙が置かれていて、ヴェネディクトが受け取ると執事はまた静かに下がっていった。

「ご近所にいるお知り合い?」

グレースが好奇心から問うてしまったのは封筒が品の良い女性を連想させたから。しかもこの時間に届くという事は郵便で届けられたものではなく、直接届けられたものだからだ。

そんな事をするのは近所の知り合いか友人だけだが、ここはグランサム公爵の領地でヴェネディクトには深い縁があるわけじゃない。

「うん、隣に領地を持ってるレディング伯爵の令嬢でね。ここに来た時にお茶に何度か招待されてるんだ」

「へぇ、そう」

やっぱりここでもモテているのだ。「やっぱり」と納得しつつも、なんだか面白くない。
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