毒は甘くて苦いだけ
こころの母は看護師で、夜勤で家に帰れない日もある。そのため、こころは祖母を見守るために彼氏を作れなかったのだ。

「君が好きだ!…俺と付き合ってほしい」

こころに告白したのは、将来芸能界で活躍するんじゃないかと噂されている近藤将馬だった。

こころの胸は高鳴る。地味でパッとしない自分を、アイドルのような存在の人が好きになってくれたのだ。しかし……。

「近藤くん。私ね、おばあちゃんの介護しなくちゃいけなくて…」

気軽にデートなどには行けない。だから、こころは断ろうと思った。

そんなこころの腕を、将馬は優しく持つ。

「大丈夫だよ。そんなの気にしない。だって、学校で好きなだけ会えるんだし」

その言葉が嬉しくて、こころは将馬と付き合うことにしたのだ。

将馬と付き合い始めて、こころの毎日は少しずつ変わっていく。色あせた世界に、ほんのりと色が戻ってきたような気がした。

こころに将馬は優しく接し、デートに誘ったりはしなかった。それがこころにとって、安心したことだった。
< 2 / 14 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop