愛は貫くためにある
「とりあえず…この娘を、上に運ぶか」
「そうね」
カフェ・テリーヌの二階は部屋がいくつかあり、桃と春彦が住んでいる。
美優も以前住んでいたが守と同棲しているので部屋は二つほど空いている。
美優と桃は、意識のない女性を二階へと連れていき部屋のベッドに寝かせた。その部屋は、以前美優が使っていた部屋だった。
「わー!懐かしい!」
美優が部屋の中を走り回っていたが、桃が静かに、と唇に人差し指を当てているのを見て、美優は我に返った。
「私、この娘が起きるまでいた方がいい?」
「ううん。私が見ているから、みーちゃんは帰っていいわよ。せっかく守くんが迎えに来てくれてるんだから」
「でも…」
「いいから。また明日よろしくね」
「はい。よろしくお願いします!お疲れさまです」
「お疲れ」
美優と桃は声を潜めて言った。

しばらくして、春彦がとんとん、とドアを叩いた。春彦が部屋に入ると、横になる女性を見守る桃がいた。
「起きたか?」
「ううん、まだ」
「そうか」
「わけありみたいね」
「そうだな」
「でも…そろそろみーちゃんの他にもう一人いた方がいいなと思っていた頃だったから、これはこれで良いかも」
桃は笑った。

「ん、ん…」

女性が、ゆっくりと目を覚ました。
「あら、起きた?」
桃が話しかけると、女性はガバッと起きてまるで怖いものを見ているかのように怯えて震えだす。
「大丈夫よ。ここは、喫茶店」
「き、っさてん?」
「そうよ。ここの下は喫茶店で、この二階は、私たち夫婦が住むところ」
「わたし…」
「喫茶店の前で倒れていたのを、ここの店員が気づいてここに寝かせてくれたのよ」
「そう、だったんですか…」
女性はまだ何かに怯えているのか、シーツをぎゅっと掴んだ。
「ゆっくりしていきなさい。いつまででもいていいのよ。大丈夫。ひとりじゃないから」
桃はにっこりと女性に微笑んだ。
「疲れただろう。ゆっくりするといい」
春彦は、女性にホットミルクを差し出した。
「さっき作ったばかりだ。これを飲んで、よく眠るといいよ。睡眠不足はお肌の敵だろ?」
「毒は入ってないわよ。大丈夫よ」
桃は春彦の手にあったホットミルクを女性の手に持たせた。
「ちょっと熱いから少し覚ました方がいいかも」
女性は黙ってカップを持った。
飲むのをためらっていた女性だったが、ホットミルクを少しずつ少しずつ飲んだ。
「おい、しい…」
「あったまるだろ?」
女性はこくりと頷いた。


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