愛は貫くためにある
「あ、あのっ…」
「なに?」
桃は首を傾げて女性を見た。
「どうしてそんなに、優しくしてくださるんですか…?」
女性の声は、震えていた。
「当たり前じゃない!困った時はお互い様でしょ」
桃は自信満々に言った。
「困った時は、互いに助け合わないとな。世知辛い世の中だけど、助け合いを忘れちゃいけないと思うんだよ、俺は」
「さすがね、春彦!」
桃が春彦にうっとりしていると、春彦も桃を見つめた。

「名前は?」
桃が聞くと、再びぶるっと震える女性。
「桃、この娘は疲れてるんだ。それに、見ず知らずのさっき会ったばかりの人間になんて言いたくないだろ。疲れてるみたいだし、休ませてあげよう。話したくなったら話せばいい」
「そうね。ごめんね、怖がらせて…」
桃は頭を下げた。
女性は首を横に振った。
「じゃあ、おやすみなさい」
「ゆっくり休むんだぞ」
桃と春彦が部屋を出ようとした時、
女性が口を開いた。

「わたし…麗蘭です。天野、麗蘭」

「麗蘭ちゃんね。おやすみなさい」
「麗蘭ちゃん、おやすみ」
桃と春彦は笑顔で部屋のドアを閉めた。
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