Toxic(※閲覧注意)
そこからはもう、完全に上の空だった。

みんながどんな話をしていたのかも、ドルチェがどんなものだったのか、コーヒーと紅茶どちらを飲んだのかさえも覚えていない。

『営業マン』

コケシは、アヤはただ、そう言っただけだ。

営業なんて、ブリリアントにはたくさんいるのだ。

でも……。

じゃあアヤはあの時、どうして私を見た?

どうして私に向けて言った?

ただの気のせいだとは思えない。

……ひょっとして、私と大和の関係を知っているとか?

ブリリアントの営業マンを夫に持つ彼女が、同じ営業マンである柴宮大和を知っている可能性は低くはない。

もしかしたら、訪日担当になる前の大和が、アヤの夫と同じ部署にいて、その顔を知る機会があったのかもしれない。

そして、私と大和が一緒にいるのを、偶然見かけたりしたのかもしれない。

そう考えれば、一応納得はいく。

しかし、本当に、そんな偶然が?

私は数えるほどしか、大和と行動を共にしていないのに?

それに、仮に私と大和の関係を知った所で、だからなんだというのだ。

あの意味深な笑顔はなに?

大和が妻帯者であることを知っている、つまり私達の関係が不倫だと知っているから?

あなたの弱味を握ってるわよ、という意味の笑み?

いや、アヤと片桐だって恐らく不倫関係だ。

そんなのお互い様で、弱味にすらならない。


……なんだろう、この底知れぬ違和感は。

何かを見落としている気がする。

とても重要な何かを──


「へえ、そうなんだ! おめでとう」

不意に、悠子のそんな声が耳に飛び込んできた。
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