Toxic(※閲覧注意)
「あれ、響子。もう帰るの?」

フロアを出た所で、書類を手にちょうどこちらに歩いて来た円香とばったりあった。

同じく海外営業部の円香だが、訪日チームではないからそれほど忙しくはないはずだ。

この時間に残っているということは、今まで打ち合わせか何かだったのか。

「いや、今からブリリアントー」

「あら、そうなの?」

「増設したレストラン見てくんの。まあそのまま直帰するけど。円香は会議?」

「そうなのよ。やっと終わった所。2時間もかかっちゃって、やんなっちゃう」

眉を八の字にして言う円香に「ほんとお疲れ様」と労いの言葉をかける。

「ありがと。……あ、ねえ、響子今からブリリアント行くのよね?」

円香の顔が、急にニヤニヤした表情に変わった。

「ブリリアントって言えば、新しい担当さん、どうだった?」

こんな表情で訊いてくるのだから、どうせ円香は柴宮大和にもう会ったのだろう。

「どうって……別に?優秀そうで安心したかな」

私がわざと淡々と言えば、円香は「ふーん?」と相槌を打ったが、大きな目が楽しそうに弧を描いている。

「まあ、響子が興味なさそうにする時は、大抵気に入った時よね」

「なにそれ、そんなこと全然ないし」

「ふふ。どんだけアンタと一緒にいると思ってるのよ」

「あ、私もう出なきゃ!」

罰が悪くなって、私は慌てるふりをする。

ブリリアントは目と鼻の先だから、それほど急ぐ必要はないのだけれど。

「じゃあ素敵なディナーを。メイクくらい直せば?」

円香はからかうように言いながら、フロアに入っていった。

柴宮大和とディナーなんて、私、一言も言ってないのに。
< 18 / 123 >

この作品をシェア

pagetop