砂時計が止まる日
電話で話すと少し前の新垣となんら変わりはない。
「どうしたの?なんか用事あった?」
《何も用事はないの。
ただ、白川君の声が聞きたかっただけ。》
少し笑いが含まれた声を聞くと、彼女の表情が容易に想像出来る。
《今、どこにいる?》
「カフェにいるよ。
いつもの席でコーヒー飲んでる。
新垣は?」
《相変わらずベッドの上にいるよ。》
答えのわかりきった僕の質問に答える新垣の声は少し細く感じられた。
《久しぶり、だね。》
「うん、一週間ぶり。」
途切れ途切れの短い言葉のやりとり。
空白の沈黙も決して嫌なものではなく、心地いいものだった。
《あー、ダメだ。》
「何が?」
電話越しに聞こえた唐突な言葉に思わず聞き返した。
《声が聞きたかっただけなのに、声聞くと今度は会いたくなっちゃう。》
君はこれ以上、僕のことを好きにさせるつもりなの。
「じゃあ、明日の放課後行くよ。」
《本当?ありがとう、嬉しい。》
“会いたい”だなんて言われたらこっちが会いたくなることを彼女は分かっているのだろうか。
「明日、ゆーちゃんの家行くの?」
「はい、なので明日は来れないと思います。」
電話を切るとマスターがコーヒーカップを磨きながらそう聞いてきた。
「いいの、うちの店のことは。
きっとキャパオーバーだったんだろうね。あの子、色々抱えてるもんね、家庭のこと以外に自分自身のことで...」
マスターの口ぶりからするにきっと病気のことは知っているのだろう。