時空間への旅人

カナは夢を信じました。あの時のユリの姿が本物だと思ったからです。 カナとユリはお互いの五円玉を交換しました。 今度は、カナ自身が自分の夢を見たくなりました。
その夜、カナは自分の五円玉を額につけ、眠る準備をしました。その姿を母親が見ていました。「何してるの、カナ。」 カナは母親が好きではありませんでした。いつもカナに文句ばかり言うからです。
「別に。お母さんには関係ないから。私、眠るから。」
カナは母親にいいました。
母親はあきれて何もいいませんでした。 カナは呪文を唱えました。するとあっという間に深い眠りにつきました。
するとカナはすぐに夢の中に入りました。
カナは古ぼけた２階建てのアパートの前に立っていました。
カナにはそのアパートには見覚えがありました。子供の頃に住んでいたアパートです。
「うわ～懐かしい。」
カナは昔、住んでいた記憶を呼び戻していました。
「そうだ、私２階に住んでいたんだ。」
カナは錆び付いた階段を登りました。
「２０５室だったわ。」 カナは２０５室のドアを開けました。
カナは驚きました。
昔住んでいた頃と、部屋の中が変わらなかったからです。
カナは懐かしくてたまりませんでした。靴を脱ぎ捨て、部屋に上がりました。
カナが隣りの部屋を見た時でした。
「カナ久し振りだなあ。」
カナの目の前に男の人が立っていました。 「私が見えるの…‥。」 カナは動揺しました。
「忘れてしまったのかいカナ。お父さんだよ。」 カナは信じられませんでした。カナが幼い頃死んでしまったので父親の顔もよくわからなかったのです。
カナは父親の顔を見つめていました。確かに母親の机の上にある写真と同じ顔でした。しかしカナは父親と話した記憶がありませんでした。 「カナごめんな。俺が死んだばかりに…‥。」 父親は泣いていました。
「本当にお父さんなの。本当に…‥。」
カナも自然と涙が止まりません。
父親はそれから家族しか知らない話しをしてくれました。カナが生まれた時、カナが歩いた時の話しを何回も繰り返し話しました。