耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー



怜は、掛けている眼鏡のブリッジを軽く人差し指で持ち上げつつ、視線をパソコンモニターに固定していた。
モニターには細かい数字の列が並んでいる。ずらりと並んだその数字を少しも漏らすことなく眺めながら、シルバーリムの奥の瞳は左右に忙しく動いている。

「―――問題ありません。次はPh(ペーハー)と温度をコンマ01ずつ上げながら、様子を見てみましょう。」

「わかりました。」

怜の隣に立っていた男子学生は、返事をするとすぐにモニターの前から足早に去っていった。

怜は長い間腰を着けていたデスクから立ち上がると、実験室の重い扉を押し開けて廊下に出た。途端、むわっとした熱風のような夏の空気が、怜の体を包んだ。
ジレの上から羽織っている白衣が一見暑そうに見えるが、当の本人はそれを全く感じさせることのない涼しげな表情で、白衣の裾を翻してから廊下を姿勢よく歩いていく。

白衣の右袖を軽く引きそこに視線を遣ると、時刻は正午を三十分ほど過ぎていた。

(もうこんな時間か……)

掛けている眼鏡を外して白衣の胸ポケットにそれを差し込むと、怜は眉間を指で揉み解した。
先ほどの実験室を併設した研究室に入ってからもうかれこれ二時間。ずっとではないが、長時間モニターを視ていたせいで目の奥が痛い。

(ブルーライト対応のレンズにも限界があるな……)

人工光で疲れた目が、自然と廊下窓の外に向かう。
窓の外は強い夏の陽射しが照りつけている。時期と時間帯が重なって、学内を歩く人はあまりいない。

< 168 / 353 >

この作品をシェア

pagetop