耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

八月に入り、怜の勤める大学は本格的に夏休みに入っていた。
学生にとっては待ちに待った長期休暇であるが、准教授の怜にとってはそうではない。講義のないこの二ヶ月間。これは研究に集中できる貴重な時間だ。

研究者でもあり教員でもある彼には、自分の研究以外にも修士課程や博士課程の学生の研究を見てやるという仕事もある。その上で自分の研究やレポート、学会などもあるので、夏休みは“夏休めない”と言い換えたいほど忙しい。実際日曜日にも関わらずこうして大学に来ている。

ついさっきも修士論文の為の実験データを見て欲しいと持って来たM2(修士二年生)の学生の面倒を見ていた。


怜が自分にあてがわれた准教授室の前まで来た時、背後から声が掛かった。

「藤波先生」

振り返ると、見知った学生がこちらへ近付いてくる。

「藤波先生、今よろしいですか?」

「竹下君。どうしましたか?」

やって来たのはD1(博士一年生)の竹下だ。

「実験中の酵母ゲノムのストレス条件ですが―――」

怜はしまったばかりの眼鏡を掛け直した。


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