耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
洗濯を回すのは怜の役目。
年ごろの女性にとって見られたくないものもあるだろう。そういうものはあらかじめネットに入れてあるので、怜が洗濯を回すだけ回したら、あとは美寧の担当。彼女が二人分を干して、畳んで片づける。

洗濯機が終わると、怜はコーヒーを淹れ、スマホ片手にソファーでニュースや株価をチェックする。仕事関係のメールを捌くのもこの時間だ。それで時間が余ると、論文に目を通したり講演の資料を読んだりする。


時計に目を遣ると、六時四十分。
再びキッチンに行き、サンドイッチを切り分け、サラダと一緒にプレートに盛り付けると、ダイニングテーブルに並べた。

(さて、そろそろ起こしに行くか―――)

美寧の部屋はリビングの廊下を挟んだ向かい側。もともとは仏間だ。
だけど怜は美寧の部屋には直接行かず、まずリビングの南側、縁側に足を向けた。

縁側の雨戸を開ける。これは美寧を起こす前に必ずやること。建付けの悪くなった雨戸がガタンと音を立てながら動くと、隙間から朝陽が差し込んで来た。

全ての戸を仕舞終えると、縁側の向かいの仏間、すなわち美寧の部屋の襖をノックした。

「ミネ―――」

ノックの後声をかけると、中から「んんー」と小さな声がする。
それを合図に襖を開けて、布団で眠っている美寧の側に行った。

「ミネ、朝です。起きてください」

「ん、んんー」

唸るだけでその瞳は開かない。

早くその丸くて透き通った瞳を開けて欲しいと思いながら、怜は畳に膝をつき腰を屈めた。

「起きて、ma minette―――俺の子猫」

小さな額にくちづけを落とす。
音を立ててから離れるのと、美寧が瞼を持ち上げるのは同時だった。




【前編 了】 後編に続く
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