残酷なこの世界は私に愛を教えた
お昼休みの後、教室に駆け戻った。
美里を見つけ、報告しようとする。
――ねえ、声、出るようになったよ!――
そう言おうと口を開く。
美里は、走ってきた私を驚いて見ている。
「愛珠?どうしたの、そんなに急いで」
「っ……」
だけど、出てきたのは空気のみ。
え、嘘……? 何で……?
さっき出たじゃん……。
美里はただ口を開いている私を半ば不思議そうに、心配そうに、驚いたように見ている。
「愛珠? どうしたの? 落ち着いて! ほら、紙!」と筆談用のメモ帳を差し出してくれる。
「っ、」
もう一度、声を出そうとしても無理だった。
「愛珠……? ねえ、ちょっと愛珠!?」
美里の声は私には届いていなかった。
訳が分からず、私はそっと自分の席に着いた。
◇◇◇
その後、午後の授業を何とか乗りきり放課後になると、私は教室を飛び出した。
校門に居るという先輩の元へと向かった。
先に来ていた先輩に走り寄る。
「よっ」
「っ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「どうした急いで」
「……先輩」
試しに選んだ言葉は音となって喉を通り抜けてゆく。
「ん? どした?」
「何か、何か声が出ないの」
「え? 出てるぞ?」
「でも、さっき教室に戻って喋ろうとしたら声が……」
「出なかったのか?」
「うん……」
その時、向こうに中田先輩が見えた。
「おい、隼人! 置いてくなって! あ、愛珠ちゃんこんにちは」
「っ、……」
あ、れ? やっぱり。
「……出ない、のか?」
横から先輩の心配そうな顔が覗いた。