旦那サマとは打算結婚のはずでしたが。
「まあまあ、そう固くならず」


くすくす笑う所長さんは、頭をあげて…と願うと私の背後を見つめ、皆藤くんは?…と訊いてくる。


「あっ…まだ帰ってないんです」


仕事へ行ってて…と言うと、「えっ?」と声を上げ、不思議そうな顔つきで、誰かと会う約束でもあったかなぁ…と思い出そうとしてる。


「確か、何もなかった筈なんだが…」


そう思ってやって来たんだが…と呟くとハッとし、「いや、そうですか」と納得した感じで頷きを返した。


「では、また出直してきましょう」


仕切り直すような言葉を囁く所長さんは、「旅行先のお土産です」と言いながらボトルワインを手渡し、「皆藤くんに宜しく」と言うと背中を向けて、さっさと庭先へ向いて歩き出した。



「あの……すみません、ありがとうございます」


ぼうっとしてた私は相手を引き止めるのを忘れ、慌ててお詫びとお礼を言った。

所長さんはその声に振り返ると優し気に微笑み、「いやいや、それじゃ」と手を振りながら再び前に足を進める。


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