異世界から来た愛しい騎士様へ



 「さて、あの少年だが。やはり、国籍を示す私証を持っていないし、住んでいた国の名前も実在しないものだった。」
 

 私証。それは自分がいつどこで生まれ、誰から生まれたのかが示されている紙の事だった。この国だけではなく、隣国でもそれを常に持ち歩かなければいけない義務になっている。
 それを持っていない事は紛失した意外はあり得なかった。紛失した場合は再発行に大金がかかることもあり、人々は大切にしているのだ。


 「そんな……彼は一体何者なのでしょう。」
 「それはわからぬ。とりあえず、少年を保護するために、チャロアイトには私の客人だと言っておき、詫びの手紙を送っておいたので、大丈夫だろう。」
 「ありがとうございます。私からも傷を負った兵士や、私を傷つけた兵士には、お手紙をお書きします。」
 「それがいいだろう。処罰はしないでくれと伝えてもおいた。」


 隣国の姫を傷つけたとすれば、何らかの罪になる恐れがあった。けれど、兵士はただ不審に入国する人を排除しようと仕事をしただけなのだ。自分を傷つけた事で、罰を受けたり、気にしたりしていないか心配だったエルハムは、父の話を聞いて安心した。


 「ありがとうございます。お父様、今からその少年に会いたいのですが。こちらに呼んでもよろしいでしょうか?」
 「姫様!?それは、危険です。それに自室に呼ぶというのは、白で働く人間でも選ばれ者だけです。他の者たちが混乱してしまいます。」

 
 セリムが話す事は最もな話だった。
 けれど、エルハムには考えがあった。
 そのために少年と話をする必要があるのだ。


 「あの少年に、私の専属護衛にしたいと思っています。」



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