異世界から来た愛しい騎士様へ



 セリムの正義感も正しいと、エルハムはわかっていた。けれど、「悪い人かもしれない。」という憶測だけでは何も変わらないのではないか、ともエルハムは思っていた。
 それでも、自分がどうして彼にこだわるのか。その気持ちもエルハム自身わからなかった。

 2人の会話を静かに聞いていたアオレン王が、口を開いた。


 「ここで話していても決まらないだろう。まずは少年に話しを聞いてみるのはどうかな?ここに少年を連れてくる事に、私も許可しよう。2人で話した方がいいだろうからな。セリム、すまんが部屋の外で待機しててくれないか。何かあった時は、エルハムを頼む。」
 「………かしこまりました。それでは、少年を連れて参ります。」
 「ありがとう、セリム。よろしくね。」
 「はっ。」


 セリムはアオレン王とエルハムに礼をすると、すぐに部屋を出ていった。
 すると、アオレン王はエルハムに近づき、微笑みながら優しく頭を撫でた。


 「私もあの少年に会ったが、不思議な人間だった。……きっと、おまえのいい友人になると思うよ。」
 「……お父様。ありがとうございます。私もそう思っております。」


 エルハムはホッとした表情で微笑み返すと、アオレン王は「何かあったらまた何か話しに来なさい。」と言って、エルハムの部屋から立ち去った。

 一気に静かになった部屋の中で、エルハムはゆっくりと息を吐いた。
 エルハムは、先程のセリムの言葉を思い出していた。


 「これで何かあったらどうしよう……。」


 そう思ってしまう、自分の弱い部分があるのをエルハムは知っていた。
 少年がスパイだったら?
 部屋に2人きりになった瞬間、攻撃されたら?
 そんなことを考えてしまい体が震えそうになる。


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