異世界から来た愛しい騎士様へ



 けれど、あの日会った少年は、全く怖いとは思わなかった。
 彼の瞳は真っ黒なのに、どこか澄んでいて、星空のようにキラキラと輝いていた。
 彼はきっと大丈夫だ。
 
 それにどこか寂しそうな表情に、エルハムは少し惹かれてもいた。きっと、それはどこか自分にも似てるような気がしたのだ。
 だからこそ、体をはって守ったのかもしれない。


 「私だけでも、彼を信じないと。」


 身元の判らない少年は、シトロンの国では偏見の目で見られるだろう。
 どんな人なのかわからないと不安になってしまうのは、誰でも同じだ。けれど、本人はどんな気持ちになるか。想像しただけでも、寂しく切なくなってしまう。

 エルハムは、強く心に決めて、ベットに座りながら手を強く握りしめた。


 すると、タイミングよくドアをノックする音が聞こえた。


 「姫様。少年をお連れしました。」
 「ありがとう。どうぞ、入って。」
 「失礼します。」


 エルハムは言葉を掛けると、まず始めにセリムが入室した。騎士団の正装である青色のジャケットに白いパンツ。ボタンなどの装飾は銀色で統一された、清潔感がある服装だった。
 騎士団はシトロンの国でも人気があり、この正装の団員が町を歩くと注目の的になっていた。


 そして、その後に入ってきたのは、憮然とした様子のあの少年だった。
 真っ白のシャツとズボンに身を包んでいた。肌は白い方だが少し黄色がかっているように見えた。体を洗い綺麗になった彼の髪は、とても艶があり綺麗だった。
 そして、彼の左手にはあの時と同じように木の剣があった。


 「すみません、姫様。その剣は預かると言ったのですが、どうしても聞かないもので。」
 「いいわ。大切なものなのでしょう。ありがとう、セリム。下がってちょうだい。」
 「はい。」


 セリムは、深く礼をした後に、少年を1度見つめ、部屋を退室した。
 それで、ようやく2人きりになれた。
 
 少年は、ただこちらをまっすぐ見ているだけだった。



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