異世界から来た愛しい騎士様へ
 


 ミツキから貰った大切な宝物。
 死ぬときは、これを持っていれば怖くない。そんな事さえ思っていた。
 
 それをキスを代償に取られてしまう。
 エルハムは、我慢してしてしまおう。そう思ったけれど、唇に残るミツキの感触を思い出して、それを思い止まってしまった。

 体に触れられる手や下の感触、男の吐息や体温。それをエルハムは嫌というほど感じてしまっているのだ。
 
 せめて、唇だけはミツキの感触を残していた。その他の体を目の前の男に奪われてしまうのならば、それだけはミツキが最後にしていたい。



 そう思い、エルハムは男の顔を睨み付けて、手のひらで男の頬を叩いた。
 パンッという音が響いた。
 男が驚いている隙に、持っていたお守りを引ったくり、ベットの端に逃げた。


 「嫌……、お守りも渡したくない!ミツキの感触も、忘れたくない………っっ!」


 エルハムは、ベットの端で小さくなりながら、お守りを守るように丸くなって、男を睨み付けていた。

 驚愕の表情から真顔に変わっていくのはすぐだった。一瞬のうちに真顔になり、そして、歪んでいったのだ。

 瞳がゆらりと冷たく光、エルハムを重い視線で追っていた。


 「…………人が優しくしてやればいい気になりやがって!!」


 男が右手を伸ばし、手が眩しいほどの光に包まれた。
 男が怒りのまま魔法を使うのがわかり、エルハムは体を固まらせた。先ほどの大きな針の恐怖が蘇り、エルハムは体を震わせた。

 そして、光が大きくなった瞬間、鉄の固まりがエルハムの元へ飛んできたのを見た瞬間、エルハムは目をキツく瞑って、来るであろう衝撃や攻撃に備えた。



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