異世界から来た愛しい騎士様へ
それから10年後。
「あんなに可愛かった男の子は、どこにいったのかしら?」
エルハムは、ウェーブのかかった髪をリボンで1つに纏めていた。その髪を左右にゆらゆらと揺らしながら、広い場所を歩いていた。
草木がほとんどない屋外のこの場所で、騎士団は練習の真っ最中だった。皆、木の剣を持って、2人1組で戦っている。
その中でも、エルハムが目が行くのはある構え方の人達。体の力を抜き、左手だけで剣を持ち、右手は添えるだけ。ひかがみを張り、爪先に力を伝えるようにしている。
以前、ミツキが「一眼二足三胆四力」と言っていた。そのカンジも教えてもらったが、「剣道」では、眼の次に足が大切だという意味だという事らしい。
騎士団では、ミツキが教えた「剣道」を実践している人も増えてきているようだった。
そんな中で、銀色の防具をつけて、一際華麗に剣術を繰り出している黒髪の男性を、エルハムは先ほどから見つめていた。
相手は騎士団に入ってきたばかりの新人の青年のようで、「重心が右か左かで、早さや飛距離が決まるから、自分で合うものを選ぶと良い。」などと、アドバイスをしているようだった。
すっかり大人になった彼を見つめては、先ほど呟いた言葉が出てしまうのだ。
呆然と彼を眺めていると、騎士団の一人がこちらに気づいて「エルハム様がいらしてるぞ!」と声を上げた。
すると、皆が礼をして、エルハムを迎えた。
そして、先ほどの黒髪の男がすぐにエルハムの元へと駆けてきたのだった。
「姫様、どうしてこちらに?もしかして、一人でいらしたのですか?」
「えぇ。皆様にいつものお礼に差し入れの焼き菓子を作ってきたの。」
「それは、ありがとうございます。皆も喜ぶと思います。ですが、一人は危ないので、私を呼んでくださいといつも言っています。」
「城の目の前になのよ。大丈夫です。」
「万が一という言葉があります。」
「…………ミツキは意地悪ね。」
そう言って、エルハムは苦笑しながら目の前の男性を見つめた。