異世界から来た愛しい騎士様へ



 黒髪の男性は、少し鋭い目つきだったが、瞳は大きくとても澄んでいた。大人びた顔つきと、鍛えた体、そしてすらりと伸びた手足がとても印象的な人だった。
 この男は、エルハムの専属護衛のミツキで、異国から突然来た少年だった。
 
 しかし、彼には少年の面影はほとんどなく、エルハムより小さかった身長も、今ではあっという間にミツキの方が大きくなっていた。
 そのため、立って彼と話をする時は、エルハムが見上げなくてはいけない。それが、エルハムにとって、何故だか悔しくて口を尖らせてしまう。
 すると、ミツキはエルハムの気持ちに気づいて、苦笑しながら膝をついてしゃがんでくれるのだ。そうすると、エルハムが少しだけ視線を下に向ける事で、ミツキの黒い瞳を見ることが出来るのだ。


 「焼き菓子、嬉しいです。ありがとうございます。」
 「………どういたしましてっ!」


 微笑みながら、エルハムが持っていた篭を受けとる彼をみると、エルハムはまた心がざわついて、強い態度を取ってしまう。
 その様子を、ミツキは不思議そうにしながら、言葉を掛けてくれる。


 「姫様、どうしました?」
 「何でもないわ。騎士団の皆様にも渡してね。」


 エルハムがそういうと、ミツキは「わかりました。」と返事をして稽古をしている皆の方へ行ってしまう。


 「本当にあんなに小さかったのに………立派になったのね。」


 大きくなった彼の背中を見つめながら、エルハムは少し寂しくなりながらそう独りで呟いた。


 この時、エルハム・エルクーリは26歳。
 ミツキ・タテワキは20歳になっていた。


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