異世界から来た愛しい騎士様へ



 普段、ミツキは笑顔を見せない。
 城の仕事をしている時や騎士団にいる時は、いつも真面目な顔で、仕事をこなしていたのだ。それを誠意があっと良いと判断される事もあればの「怖い」と言われる事もあるようだ。けれど、彼が優しいことを知っている世話係の女性たちからは人気があるようだった。

 けれど、そんな仏頂面な彼だが、エルハムの前だけは違っていた。
 エルハムと一緒の時は素の微笑みを見せていたのだ。まだ、満面の笑みとはまではいかないが、それでも楽しそうに笑っているのが普通だった。
 そのため、ミツキの笑顔を見たことがない人達にとって、それは貴重であるようだった。

 エルハムは彼に、「みんなにも笑いかければいいのに。」と言った事もあったけれど、ミツキには「笑いたいときに笑うだけです。」と言われてしまった。
 それは自分といる時は楽しんでくれているという事だと知ると、エルハムは自分が特別に思えて嬉しくなってしまい、頬を染めたのはミツキには内緒だった。
 それ以来、エルハムはそんな事を言うのを止めたのだった。





 
 朝食後に、エルハムとミツキは城下街に来ていた。城から出てすぐの大きな道、赤と白の煉瓦道だった。その両脇には色々な店が並んでいた。同じような煉瓦で出来た家の中が店になっていたり、露店であったりと、店のあり方は様々だった。
 その中を、水色の無地のドレスを着たエルハムと騎士団の正装に身を包んだミツキが足を進めた。
 すると、エルハムが歩き始めるとすぐに、沢山の人に声を掛けられる。


 「エルハム様!おはようございます。今日も来てくださったのですね。」
 「おはようございます。ええ、お邪魔しております。今日もお客さんがいっぱいですね。」
 「お姫様、今日もキレイだね。」
 「ありがとうございます。お店のお花、とっても美しいですね。どれがおすすめでしょうか?」

 「エルハム様。」
 「姫様!」


 こんなように、行く先々で挨拶を交わしながら、エルハムは街を楽しく歩いていた。
 こうやって国の人々の笑顔が見られる。自分と話す事で、こんなにも笑ってくれるのだ。
 エルハムは、だからこそいつも城の外へ出掛けるようにしていた。母が言っていた言葉を少しでも叶えられているようで、嬉しく思えた。



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