異世界から来た愛しい騎士様へ



 「姫様。そろそろ場所を移動しましょう。」
 「ええ、そうね。皆様、ごめんなさい。今日は予定がありますので……また、今度。」


 後ろに控えていたミツキが、耳元でそう囁くのを見て、周りの人々も「また来てくださいね。」と言って、ゆっくりとエルハムから離れて行く。
 騎士団員であり、エルハムの専属護衛のミツキの話は、国の人々も知っていた。
 異国から来たというのも、すぐに広まり始めは見たこともない容姿の彼を怪訝そうに見ているようだった。けれど、城の人々と同じように、エルハムの隣で真剣に護衛する姿を見たり、騎士団員として仕事をする様子を見たりしていくと、次第にそんな視線もなくなっていた。
 今では、ミツキをエルハムの護衛として認め、彼の言葉に従うようになっていたのだ。


 人だかりは消え、エルハムが歩きながら小声で隣を歩くミツキにお礼を言った。


 「ありがとう、ミツキ。助かったわ。」
 「いいえ。予約している店に向かわなければいけなかっただけなので。」
 「ええ、そうね。では行きましょう。」


 周りを警戒しながら歩いているため、こういう時の彼は、特に目が鋭い。
 そんな彼を見て、少しだけ嬉しくなりミツキに隠れて口元を緩めてしまう。

 こうやって真剣に守ってくれるミツキの姿が見られるのも、城下街を歩くのが好きな理由の1つだな、とエルハムは思っていた。


 そして、目的地である店の前に到着した。
 そこには「本屋」と小さな看板が出されていた。周りの店より小さな家で、ひっそりと佇んでいる、隠れ家のような店だった。白い煉瓦で作られた家は、少し薄汚れていたけれど、それがまた良い雰囲気を出しているようだった。

 木で作られたドアをミツキが開ける。
 ギギギッと音を鳴らしながら、ゆっくりと店の扉が開く。すると、そこからは本特有の燻った匂いが漂ってきた。

 エルハムもミツキの後に店の中に入る。
 天井までの本棚がところ狭しに置いてあり、そこには本たちが並んでいた。
 この本屋はシトロンの中でも、1番の品揃えの本屋だった。シトロンで売っているものだけではなく、隣国のものや遠い国のものもあると店主に以前聞いたことがあった。

 「お邪魔します。」と、声を掛けると小さな店内から「あぁ、お待ちしておりました!」と男性の声が聞こえ、パタパタと走る足音が聞こえた。



< 34 / 232 >

この作品をシェア

pagetop