異世界から来た愛しい騎士様へ
「いらっしゃいませ、エルハム様。」
店の中から出てきたのは、丸いふちのメガネをかけた白髪で低身長の老人だった。
優しく語りかけるような挨拶と、ゆったりとしたお辞儀で優雅に2人を迎え入れてくれた。
「遅くなってしまって、ごめんなさい。店主さん。」
「いえいえ。エルハム様が注文していた本が全て揃ってます。こちらになります。」
店内で唯一のテーブルは会計する場所のようで、いろいろなものが置かれていた。そこの上に数冊の本も一緒に重なって置かれていたのだ。
「ありがとうございます。ずっと待ってたのです!この本の新作と、あとはこの方の他の本を。………早く読みたいわ。」
「このシリーズは本当に人気ですね。エルハム様もお読みになっていると聞いて、同じファンとして嬉しい限りです。」
「ミツキもこの国の言葉を読めるようになってきて、この本を好きになったみたいよ。」
「そうでしたか。……確か、ミツキ殿は異国からいらっしゃったのですよね。文字を新しく覚えるなど、優秀でいらっしゃる。」
丸眼鏡の店主が目を細めながらミツキを見て微笑んだ。ミツキは、小さくお辞儀をするだけだったけれど、先程までの警戒心がある表情ではなく穏やかな様子だった。彼も褒められたことが内心では嬉しいのだろう。
「私が彼に文字を教えたのだけど、最近では教える事もあまりなくて……逆に私が彼の国のニホンゴを教えてもらってばかりで……。」
「………ニホン………。」
「……どうしたの、店主さん?」
丸眼鏡の店主は、その言葉を聞いた途端に何かを考えるように目を瞑った。
「ニホンという言葉、どこかで聞いたことがあるような気がしたのです………。」
その言葉を聞いた瞬間、エルハムとミツキは視線を合わせて驚いた表情を見せた。
それもそのはず。ニホンの事について話をしたことがあるのは、極少数だった。それが全て城の者であるので、それ以外の人が知るはずもないのだ。
「店主!それはどこですか?」
エルハムの後ろで静かに佇んでいたミツキは、すぐに大きな声を上げて、丸眼鏡の店主に問いただした。
ミツキ以外で、ニホンを知る人と出会ったのはこれが初めてだ。
慌てているミツキを、エルハムは少しだけ複雑な気持ちで見つめていたのだった。