ビタースウィートメモリー
「散々色んな女性をヤり捨てしてきたお前があたしに意見出来るのかよ。それに、もう一回言うけど、あたしは吉田さんからの告白は断ったんだ」
「なんでだよ。社内で浮いた噂がないならそっちと付き合えば良いじゃん」
「はあ?」
大地の言っていることが理解出来ず、悠莉の思考は再び凍りついた。
「だってお前、俺のこと異性として好きなわけじゃないだろ?」
大地が悲しげに睫毛を伏せる。
悠莉の思考はいまだ凍ったままで、なぜこんなに拗れたのかわからず、静かにパニックを起こしていた。
「俺は分かりやすく行動したしちゃんと告白もしたけど、ずっと青木の態度は変わっていない」
その一言にハッとした悠莉だが、間の悪いことに、ポケットの中でスマホが震えた。
誰かから電話が来ている。
このまま大地を放置して仕事に行ったら埋まらない溝が出来そうで、悠莉はすぐに電話に出られなかった。
「……電話、出ろよ。取引先だったら待たせちゃまずいだろ」
素っ気ない物言いの中にも、気遣いがある声に、悠莉の胸が疼いた。
どうにかして、自分の気持ちを伝えたい。
その想いが芽生えると同時に、悠莉は大地のネクタイを掴み、自分の方に引っ張りこんだ。
踵を浮かせ、バランスを崩してたたらを踏む大地の唇を奪う。
ほんの一瞬触れただけの淡い口づけに、悠莉は耳まで赤くした。
「言っとくが、異性として認識していなかったらこんなことしないからな。今夜20時に甲州屋に来い!続きはそれからだ!」
唇を押さえて唖然とする大地の顔は見ずに、悠莉は早足でその場を去った。
誰に見られるかわからないのに、会社の廊下であんなことをした自分が信じられなかった。
そして、衝動的に動ける情熱がまだ自分に残っていたことがわかり、少しだけ嬉しかった。