ビタースウィートメモリー



昼休み、トイレに行った際にこっそりインスタを開くと、まりりんの投稿は消えていた。

そして同時刻に、吉田からLINEが来ている。

どうやら彼の予想通り、後輩の野村真利奈の仕業だったらしい。

騒動に巻き込んでしまったことを謝罪する吉田だが、彼も被害者である。

それに、告白されたことも振ったことも噂にして、今回の件をうやむやにしようとしている悠莉も大概だ。

口が軽そうな女子社員に、本来なら胸に秘めておきたいであろう昨日のことを暴露したことを、悠莉はLINE上で謝罪した。

本当なら直接会って謝りたいが、今二人きりになったりなどしたらまた変な噂が立つ。

そろそろ外回りに行く時間だ。

軽く化粧をなおしてトイレを出ると、給湯室の前に見慣れた人物が立っていた。

ちょうどコーヒーを淹れに来ていたらしく、香ばしい匂いが広がっている。

薄くしなやかな筋肉に覆われたスリムな体型と、その価値をより高める黄金比率の甘いマスクの持ち主、小野寺大地が紙コップに入ったコーヒーを片手に給湯室を出てきたところだった。

真正面から目が合って、悠莉はフリーズした。


「……オハヨウ」


口から飛び出たのは、日本語を覚えたての外国人のような片言の挨拶だった。

いつもならそれに笑いながら突っ込む大地だが、今日は違う。

丸く綺麗な形の目を、彼は不機嫌そうにすぼめた。



「なんだよ二股女」

「は?二股?」



何言ってるんだこいつ、と顔をしかめた瞬間、まりりんの投稿を思い出す。

あれを見たのかもしれない。

サッと顔を青くした悠莉に、大地は苛立ちもあらわに舌打ちした。


「俺の告白を保留にして、天秤にかけていたんだろ?で、選んだのはあっちってわけか」

「違う誤解だ!」

「じゃあインスタで流れてたあの写真、何」


線の細い美しいかんばせは、今や怒りに染まっている。

底冷えする低い声に腰が引けそうになるが、悠莉は怖じ気づく自分を叱咤した。


「昨日一緒にご飯に行ったら告白されて、それでその……。とにかく、あの写真は告白される前のものだ!その後すぐに断った!」

「へえ……デート行ってきたんだ。俺の返事は保留にして」


結局そこか。

まったく予想しなかったわけではないが、どこかでバレなければ良いだろうと高を括っていた自分はいた。

しかし、非難めいた大地の声に、悠莉は反抗心が沸き上がるのを抑えられなかった。


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