ビタースウィートメモリー
episode3
「え、なんで小野寺がここに……」
会いたくない人に会ってしまった気まずさよりも、待ち伏せされていたことにドン引きしてしまい、悠莉は巨大なゴキブリでも見るような目で大地を見た。
「その汚物を見るような目やめろ。イケメンが帰宅を待っていたんだからもっと喜べ」
「あたしは顔の造形美に興味が無い。よってお前の最大の価値である顔面偏差値は通用しない。イケメンだろうと不細工だろうとストーカーはストーカーだ。気持ち悪い」
「っていうか自意識過剰すぎ。誰が好き好んでお前みたいなおっさんくさい女のストーカーになるか」
「じゃあなんでここにいるんだよ!」
悠莉をおっさんくさいと言っている時の大地の目は、泥酔して駅のホームで寝こけているおじさんを見る時の目であった。
今の彼はいつもの憎たらしい大地である。
腹が立ちながらも、軽快に話せる空気であることに安堵した瞬間だった。
「お前、LINEもTwitterもブロックしただろ。本当に俺と絶縁する前に、一回で良いから話を聞いて欲しい」
どこまでも真剣な声でそう言う大地に、悠莉はしばらく迷い、頷いた。
「……わかった。出張帰りで疲れているから、話はあたしの家で聞く。終わったらすぐ帰れよ」
「ありがとう。荷物貸して。持つから」
キャリーバッグとお土産の袋を持たせて、カードキーを差し込み、エレベーターが来るのを待つ。
以前大地が泊まりにきた時以上にエレベーターが狭いが、悠莉は無理やり体を捩じ込んだ。
「青木、肘が鳩尾に当たって痛い」
「こっちだって小野寺の足が邪魔で普通に立ってられない」
体格が立派な二人だからおしくらまんじゅうのようになっているのだが、二人ともその自覚は無かった。